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【わかりやすいマニュアルの作り方】第170回制作者の常識を疑え

昨日は金環日蝕でした。グラスを手に入れた人はもちろんのこと、幸いにも雲が薄くかかったので裸眼でも観察できた方が多かったのではないでしょうか。

もっとも、自分の記憶しているはるか昔の太陽観察キットはもっと薄い色で、現在では透過性が高くて不適切な製品として市場から排除されるようなものだっただろうと思います。まぁ、もうひとつ昔ですと、ガラスにロウソクのすすをつけてそれを通して、ということになってしまうかもしれませんが。

■メーカーの常識

さて。

今回は「常識を疑え」ということです。

私はテクニカルライターとして、家電製品を最も得意としています。ですから自分の常識レベルとしては、一般ユーザーよりも、メーカーの方に近くなっている、と言えると思います。それに加えて趣味がアウトドアとオートバイと武道であったりするため「自分の手を動かして何かをする」ということに苦労を感じません。むしろ、楽しみに感じるといえるかもしれません。

さて、今回は何気なく人のブログを見ていて発見したことです。今回、その人は見つけた状態をすでに解消しているということですし、その人を非難するのが目的でもありませんので、そのブログを示すことはしませんが、内容としては以下のようなことでした。

うちのキッチンでは不便だからIHヒーターの上に1口のIHヒーターを置いて使っています。

待ってください。自分の常識ではIHヒーターの上にはIHの機器(炊飯器など)は置いてはいけないはずでした。
なぜかというと、上に置いた機器の電磁誘導によって下の機器のIH部分に影響を与える、言い換えると下の機器が壊れる可能性があるからです。感覚的には電子レンジに、金線のついたお皿を入れてはいけないっていうのと同じぐらいの常識でした。

だって、電磁誘導です。上に置いたインダクションの機器が動作したら、下にやはり同様に電磁誘導コイルがあるとしたら、影響を受けないはずがないではないですか。壊れない方が不思議です。

しかし、残念ながら、これはメーカーの常識でした。

■何も知らないユーザー

これを書いていたのは名の通った経済評論家のブログでした。タイトルにまでIH on IHと書いていたでので、こういうことをすると問題があるとは一切認識していないようでした。
しかし、公開されているメーカーの取扱説明書を見ると、たとえばパナソニックのIHコンロではイラスト入りで禁止事項として示していますし、上に置くタイプのコンロでも、IHヒーターの上に置かないようにと書かれています。理由は、やはり下の機器が故障するからです。

ブログにはコメントをつけることができますし、「イイネ」といったボタンを押す機能もあります。確認してみると、多数の「イイネ」が付き、コメントも「すばらしいアイデアだ」と褒めるものがほとんど…一部には「下のヒーターが使えないじゃないか」というのはありましたが、そもそも禁止事項であるということがブログの書き手はもちろんのこと、ほとんどのユーザーに伝わっていないということがわかって、ゾッとしました。

常識が異なっているのです。

  • テントを張るときにはアンカーで固定すること。
  • 薬品は医療従事者の指示に従って服用すること。
  • 200Vの電源はうかつにあつかって感電すると大けがになること。

こんなことは、メーカーサイドの自分たちからすると常識のように思えます。そして、うっかり説明を忘れてしまって、そういう常識を知らないお客様がセルフの店舗や通信販売、またはインターネット販売で購入して事故を起こしたり、クレームを付けてくるのです。

そのためにも、自衛手段として事前のきっちりした説明や取扱説明書が大切になる、と書きたいところなのですが…

前述の経済評論家のブログと、それにコメントを付けた人たちすべてが、メーカーがわかりやすくイラストまでつけて禁止事項として書いているのに読んでいないのです…

これ以上の対策としては本体にシールとか表示するしかないのですが、取扱説明書の制作者としてはつくづく困ったものだと思います。

マニュアル(取扱説明書)制作の専門家 取説屋:石井ライティング事務所

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