前回の続きです。
そう。
私たちの制作しているマニュアルは、実は「消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供する」ことが法律によって求められていたのです。
こう書きました。
これは事実です。が、一面でしかないということも書かずにはいられません。
私達マニュアル製作者はこういった法律的な制約が付いたものを作っています。
ですから、マニュアルの中には「これで絶対安全」などといったことを書いてはいけないといったことに法律的な裏付けがついたという側面はありますが、マニュアルの本質はお客様が、分かりやすく製品を扱えるようにするために作るものです。
■マニュアルの法律文書化の結末は?
さて。
こうしてマニュアルは、ユーザーのための取扱・操作説明書の側面と同時に、法律文書としての役割も持たされるにいたったのです。
その結果、どういうことがおこったか。
マニュアルの冒頭に数ページにわたる「ご注意」が並ぶことになりました。正直、この部分は誰も読みません。以前に「携帯電話のマニュアルの読者は販売店の店員」と書きましたが、この部分だけは店員さんすらも飛ばしています。
いまに、「注意書きは別冊で添付」ということになるのではないでしょうか。その方が合理的でコストが低いと判断すれば、きっとそうなるでしょう。
水に濡らすなとか、落とすな、分解するな、ぶつけるなといった一般的な注意は現在でもほとんど機種別ではなく、前機種の流用と、機種特有の機能の追加くらいですから、機能が増えなくなった時点で共有化してしまう方が合理的でしょう。
そして、その結果として最初からその本は開かれもせずに捨てられるでしょう。
…これでは、なんのためのマニュアルでしょうか。
■マニュアルはやっはりユーザーのためのもの
それでは、私達マニュアル制作者はどうすれば良いのでしょうか。
もしかすると、前述のような分冊でも法律的にはクリアできるかもしれません。
そして、「分冊に注意書きは書いたから」という理由で、マニュアルの操作手順での注意がきを削減してページを減らそうと考えるかもしれません。
しかし、それは「石井ライティング事務所」の考えるマニュアルとは違います。
石井ライティング事務所では、実のところマニュアルを全部、読んでもらえるとは考えていません。マニュアルが「必要なとき」に開くものです。
必要な時というのは「設置するとき」「初めて使うとき」「使い方に困ったとき」「トラブルが発生したとき」といった場合で、注意が有効なのは、そのうちの「初めて使うとき」と「設置するとき」だけです。他の場合は、トラブルの解決方法を探しているのであり、注意書きの部分は間違いなく読み飛ばされます。
■あるべき注意喚起
こうした理由から、石井ライティング事務所では注意書きは「本体の説明」または「使い始めの説明」の部分に、とくにはじめてその部分に触れる場所と近接してなければいけないと考えています。
ふたで手を挟む危険があるなら、最初にふたの操作について説明するところの近くか、本体説明のふたの近くに。
このような書き方を提案すると「お客様を怖がらせてよくない」とおっしゃる方がいます。しかし、これは本末転倒です。危険があるなら、危険を減らすように改良するのがメーカーの仕事です。そして、取説屋はそこにある危険は危険と書くことによって、事故の発生を減少させられるのです。