先日、テクニカルライターのオフ会に行った。
そこで非常に面白かったのは、自分が少し標準から外れかかっていることでもあるが、テクニカルライターという仕事はコンピューターのハードウエアもしくはソフトウェアについて書くものだと認識されているということであった。言ってしまえば、対象はほとんど「情報機器」と言うものである。従って携帯電話や、その発展形であるスマートフォンなども担当しているが、自分のように浄水器だの組み立て家具だのといった物を担当していた人はいなかった。
これを「面白い」とだけ言ってしまうのはいけないのだろうが、相変わらず自分だけ一般の流れから外れているというのはちょっとおかしい、ということだけは否定できない。自分は電動工具、浄水器、組立家具といったものが好きだったりする。だからこういったものを扱うのが楽しいと言うのは本当の話なのだが。
実はこの日、午前中から3時ぐらいまでは、別の取扱説明書制作の関連のセミナーに行っていた。こちらでは逆に、取扱説明書制作者といったことが職業として成立していない。いや一応成立しているにはしているが業界として、ということが語れるほどの規模がないのである。製品が難しくないと、同時に取扱説明書の制作も難しくなくなると思ってしまうのだろうか。しかしそういう理由でもないと、コンピューター関係以外に取扱説明書業界というものが成立していない理由が説明がつかない。
■取扱説明書はコンピューターだけ?
確かにコンピューターのハードウェアおよびソフトウェアに関しては、仕様書を読み込んだりテストをしたりして、その製品がどのようなものであるかを調べることができるというのは確かに特殊な技能であることは事実です。
しかし、だからといって、それ以外の一般的な製品に関して取説がなくても良いということになるわけでは全くありません。逆に私たちのように取扱説明書の文章を書いてきた人間であれば、別にハードウェアやソフトウェア以外の製品でも取扱説明書を作る事は可能なのです。ではどうしてそういった業界が存在しないのでしょう。
理由は、簡単。取扱説明書の政策は製造部の仕事の一部だと思われているからでしょう。しかも製造部から見ると、あくまでもメインの仕事は製品を作ることであり、それを使うための説明をするといった事は、おまけ程度にしか思われていないのが一般ではないかと。
■取扱説明書はサービスの第一歩
とするとどうなるか。おまけ程度のものにコストかけられるわけがなく、コストをかけられないって事は、当然ながら人がまわせないということになる。そして、それでは良いものが出来る訳がないというのはここでこれまで説明してきたことからお分かりいただけると思います。
その結果どうなるか。ひどい取扱説明書ができあがります。もっとも製品が使いにくい理由は取扱説明書よりも、本体表示の不足などの場合が多かったりはしますが。
■製造部と営業部
製造部はそれで製品を出してしまえばそれですみます。しかし、問題はその後の営業部…特にユーザーサポートのセクションなのです。以前に書いたことがありますが、取扱説明書というのはパッケージの中に入っているユーザーサポートの1番最初なのです。
しかし、そのユーザーサポートはほとんどの場合あまり大切にされていません。製造部に関しては、おまけでそこで終わりでよいかもしれませんが、サポートのセクションにとってはそこからが始まりなのです。きちっとしたわかりやすい取扱説明書がパッケージに入っていれば、サポートの必要なケースは減るでしょう。取扱説明書にきちんと連絡先を書いてあれば、ユーザーサポートの関係ないセクションに電話がかかって、くだらないことで怒鳴られるといったことも減るでしょう。
そういったコストを考えると、きちっと取扱説明書を作って、きちっと連絡先が書いてあるものを作るということができれば、ユーザーサポートのコストがかなり減るのです。そして、取扱説明書を作るのに今までかかっていたコストと、取扱説明書をきちんと作ることによって減少するユーザーサポートのコストを比較すると、後者の方がかなり大きいのです。
■取扱説明書の改良コストは
取扱説明書を改良する、良い取扱説明書にするのにはいまかかっているコストよりも10万円かければ、かなりコストをかけられたことになります。それに比べて、ユーザーサポートで10万円の予算があってどれだけのことができるかをちょっと考えてみてください。
「あんまりたいしたことはできないなぁ」と思うのが実感だと思います。ですから、取扱説明書について今までの「製造のおまけ」といった考えから、ユーザーサポートの1番最初という風に考え方を変えてほしいのです。
きちんとしたユーザーサポートは、ブランド構築にもつながります。きちんとWebに公開された取扱説明書は、購入の時の決め手となる場合だってあるのです。当たり前の提供すべきサービスをきちんと提供する。これはいまのメーカーとして当然のことです。その「使い方の説明」というサービスの部分だけ、専門以外の技術者が担当していい、という理由は無いと思います。
これがうちの取扱説明書に関する考え方です。