身体道楽日記 その6

役に立ってしまった武術<98/06/08>

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タイトルは恐ろしげですが、実際にはほとんど何も起こっていないという……

■危ない夜道

ついおととい、珍しい経験をしましたので。

新江古田から江古田への道、夜の11時ころ。
今時珍しいチンピラそのものの格好をした人が歩いていた。まっすぐ歩けばちょうど、僕とぶつかるコースである。
その時点の僕は「(自主規制。よくないことです)」とか生産的なことにアタマがいっぱいで、そのチンピラさんのことは意識の端にしか止めていなかったのだが。

ちなみにもその様子は。
開襟シャツにジャケットと光り物、あたまは古臭いチンピラパーマで、妙にニヤついていた。
後から思い返した格好なんですけどね。その時点では、こいつなんでニヤついているんかな、アブないやつだなと思っただけだったんですけど。

どういうわけか、そいつはまっすぐ衝突コースから外れない。
僕は意識が別のところに飛んでいる。今は意識して書いているけれども、このあたりの記述はすべて無意識の動作である。

僕は右に半歩コースをずらした。そいつは、身体を振って道をふさいだ。
仕方がないので左によけて脇を抜けようとした。
と。
どん、と当たる感覚があった。肩はいいとして、脇にも当たりの感触があった。
「?」
反射動作が出た。体軸を狙った当たりではないから、当たったポイントをそのままに後ろにずるっと抜いた。推手(太極拳の組手のような練習)でヒットされたときにダメージを軽減するときの要領である。それでも、普通にぶつかった時よりはでかいショックがあった。

10歩ぐらいそのままぶらぶらと歩いてからはたと気がついた。
「いまの当たり、やけに強かったな……もしかして、わざとか?」
もしかして、ではない。わざとでなければ、脇に当たるわけがない。
それも位置と感触から考えると十中八九、肘である。
「はりゃ?」
振り返ってみたら、そいつはいなかった。
僕が10歩だから、そいつも10歩歩いていても、まだ角や分かれ道には到達しない位置のはずなのに。
その時はなんだかわけがわからなかった。
で、後で考えた結果、たぶん、そいつは逃げたんだろうなという結論に達した。
僕が流してなお感じたショックから推定すると、まともに当たっていたら、すっ転ぶくらいの当たりをブチかましたとしか思えないのだ。それが、当たったと思った瞬間に相手がずるりと抜けて、なおかつまったく無視して(本人は攻撃されたという意識がないから、ありゃ当たったかなぐらいのことである)すたすたと歩いていく。
やった方のチンピラとしては、こんなキモチ悪いことはない。
ケンカを売ろうにも「当たっていない」から売りようもない。とすれば、逃げるより他に仕様がなかったのではないだろうか。
ううーむ。助かったのでいいことなんだが……。
どっとはらい

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