身体道楽日記 その13

強いって何だろう? '99<99/04/10-99/07/15>

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武術の稽古を始めて5年がたちました。

そして、ずーっと思い続けて、考えつづけていた「強いって何だろう」ということについてようやく書けるような気がしました。

武術をやるのは「強くなるため」です。どんな言い方をするにせよ、これにつきます。
伝統文化を継ぐのであれば、僕の場合であれば
水術でもよいし、あるいは他の何かであってもよかったのです。
ですが、武術を選択したのは、結局のところ強くなりたいと願ったからであり、そのための努力は惜しくないと考えたからに他なりません。

そして、現時点ではじめて、ずっと迷いつづけていた「強いって何だろう」「自分が強くなるとはどういうことなのか」「自分はどう強くなりたいのか」(これらはすべて同じ疑問です)かを理解できるようになったのです。

それを書こうと思います。


これを読んでいるあなたに質問です。

あなたにとっては強いっていうのはどういうことですか?」

答えは出ましたか? それではその答えをもって、お読みください。


きっかけ

サイトでは初めて書くことになります。
僕が武術を始めたのは、数年前にまったく予想外の場所で、予想外の相手に刃物を向けられたことをきっかけとしています。
それは、今だからこそ書けますが、その時点の僕にとっては、それまでの人生観がまるでひっくり返るほどの衝撃であり、「僕はなにかの拍子にふいに暴力によって思わぬところで命を失うことがあるかもしれない」という恐ろしい認識を得た瞬間でした。
僕はとりあえず、その場から逃げたす算段をし、大切なものがいくつもあったにかかわらず、それらをすべて振り捨ててそこを逃げ出しました(逃げ出したことは正しい判断だったと思いますが、同時に二度と繰り返したくない経験でもあります)。
仕事こそしていましたが、金もなく、何のあてもない状態でしたが、ただの2週間で引っ越しして逃げたのですから、なかなかの早業だったといえるでしょう。
そして、逃げると同時に考えたのです。

「何もせずに暴力によって殺されるのは厭だ」

そして、まったくたまたま渋谷の東横線のホームで「太極拳」の宣伝を見つけ、柔拳連盟に通うこととなったのでした。
その時点では柔拳連盟についての知識どころか、王樹金老師の名前も聞いたことがなかったということを考えると、というのは不思議なものと思わずにおれません。
なお、これはまったくの後知恵になるのですが、たまたま中國武術の(または広く取って東洋の古い武術)の考え方「自分はダメージを受けずに相手を倒す」という考え方が自分にあっていたということもあるのでしょう。

意地

いろいろ考えてみたましたが、どうやら僕は意地のために武術をやっているようです。
意地でわかりにくければ侠気(おとこぎ)または矜持と言い換えても構いません。

かっこいいことも言いたいけれども、正直言って正義どころかなにかを守るためですらありません。まして「伝統」をという考えは僕には(現在ではまだ)二義でしかありません。
健康によいといった副次効果もありますが、あくまでも「強く」なりたいという思いがベースなのです。
こう書くと、ではなぜ太極拳かと問う人がいます。他にいろいろあるだろうとも言われます。
でも、これについてはだとしか答えようがありません。たまたま渋谷を通って通勤していて、その渋谷に道場があり、広告を目にする機会があった。そんなことから始まっているのですから。
縁については、また別の機会に書いてみたいと思います。

僕はこんなサイトを作っているくらいだから、他人に命じられて膝を屈するのは大嫌いです。そして、そうしないためには「力」はどうしても必要です。残念なことに、矜持だけでは足りないのです。
「力」には経済力、頭脳、人との付き合いなどいろいろな面があります。
困窮していれば、金の力の前に膝を屈することもあるだろうし、頭脳で劣っていれば従わされることもあり、また政治的に敗北することでも屈伏させられることも考えられます。
それでも、これらはある程度までルールの中のことであり、工夫を重ねれば、完全に支配されない方法は見つかるでしょう。
しかし、暴力はそうではない。ルールを破って襲ってくるものに対して屈伏しないためには、どうしても「力」が必要なのです。
だから、僕は「力」を身につけるために武術をしているのです。

恐ろしいこと

それゆえに。今、一番怖れているのは、自分自身です。

僕は、「力」を使って人に無理を強いていないか。無理矢理に人を従わせるようなことをしていないか。人を脅していないか。
これらは僕がされたくないことである。だから、人にもしたくない。
だが、自分ではわからない。

僕は人に押しつけてはいないだろうか。
それがとても恐い。


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