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【わかりやすいマニュアルの作り方】第195回 基本の基本を書き忘れる

2013年4月16日 火曜日

やっと温かくなってきましたね。櫻の花は早くに咲いてもう散ってしまいましたが……
さて。ちょっと今回は、今までと違った方向から書いてみようかと思います

今、私は妻に連れられて新しい習い事を始めています。
私のことを知っている人でしたら、武道系のものかと思うかもしれませんが、残念ながら違います。武道系のことでしたらかえって今までやってきた事がベースとなるので始めるのは楽なんだろうと思います。ただしその分、癖となってしまうことが多いように感じますが、それがどういうことなのかを「言葉」にして説明できる貴重な機会が得られましたので、今回はそれについて書こうと思います。

■武道だったら簡単なのに…

本当に武道関連でしたら、それなりに武器をどう扱えばよいか、といったことはなんとか、想像がつきます。
しかし今回習っているのは、動きをきれいにしようという目的を含めて茶道なのです。
まったくわかりません。
実は、最初に立つ時の動作が大きいということで指摘を受けました。
これについては修正済みですが、そもそも立つ時の動作の考え方の基本として「相手を蹴ることができる」という考え方が頭の底にあったわけで、そこから直す必要があるかと思ったわけです。……結局この点に関しては、「考え方」は直さずに「動作」だけでなんとか対応できることがわかりましたが。
これは余談でした。

■できなかった動き

さて、今回できなかった動きというのは、袱紗を「捌く」という動作です。
基本中の基本動作で、1番最初に習うことであり、どう習ったのか。というよりも、先生方などにとっては普通の動作として完全に身に付いているものと思います。

それだけにこれをやったことがない人に説明しようとすると、うまくいかないのです。
簡単に言うと、ふくさという布の右端の角から左端の角に向かって、左指で引いて持ち換えるといった程度のことのですが、これを習った通りにやろうとすると、右手の指がつりそうになる。
先生はどうして指がつりそうになるのか理解ができず、「緊張でもしているのか?」と聞かれたほどでした。

何回かやってみて、容易にできる場合と、指がつりそうになってできない場合があるということがわかってきました。
そうすると自分は普段から身体を使って考えることをする人間ですから、できる場合とできない場合とで何か違いがあるに違いないという風に考えました。
そうして、なんとかやってみながら、妻にも同じ動作をやってもらいました。
ごく自然に、袱紗の上の辺を平らに…水平に持っていました。
あまりにも当たり前のことなので、「捌く」ときには上の辺を水平に持つということは説明するのことを抜かしてしまったようです。

その結果として、自分の動作では左の角がかなり下がっていたようなのです。上辺が水平を保てていない。
左の角が下がると、右側の余っている布の部分は当然重力に従って真下に下がりますから、本来あるべき位置よりも遠くなります。遠くなったものを無理矢理捕まえようとするので指がつりそうになる。これが私に起こっていたことでした。
正直なところ説明する方がアホらしいと思われるようなミスです。
しかし不思議なことに、これを指摘されなかったのです。というか見ていても分からなかったようなのです。
なぜかというと非常に簡単な話で「そんな事はあり得るはずがない」と思っていたから、でしょう。ありえないことだからそんなことを注意する必要が無いのは、といった思考だと思います。

■たとえば炊飯器では

私たち取扱説明書を作っている人間もこれに近いことをやるおそれがあります。
例えば炊飯器の説明書を書くとして、
1.電源をつなぐ
2.研ぎ終わった米の入った内釜をセットする。
3.メインスイッチを入れる
といった手順を書いた場合に、じつは「炊飯器の蓋を閉める」といった説明が抜けている可能性があるのです。
別に難しい説明ではありません。むしろそうするのは当たり前だろうと思う程度の、操作です。

■アプリの標準的操作

炊飯器では実感がないかもしれません。しかし例えば今流行っている、Androidのアプリケーションなどでは「標準的操作」は誰でもわかっているモノとして、説明がされていない場合があります。
実際テクニカルライターといった。かなり技術には強いと思われる仕事をしているような自分でも、しばらくわからなかったりしたことがあります。
ここではそのアプリケーションに対する批判がブログの趣旨ではないので詳しい事は書きませんが、そのアプリケーション1つだけの問題とは思えませんでした。
今書いている取扱説明書「あたりまえ」の内容の記載が抜けていることがないかもう一度チェックしてみませんか。


【わかりやすいマニュアルの作り方】第173回 記号について

2012年6月19日 火曜日

先週は、関西地方で梅雨入りなんて書いていたら、あっという間に関東も梅雨入り、それどころか、台風が本土上陸なんて話になってきました。

実際、事務所から外に出るとむっとするほど暑くなり、なつがすぐそこまで来ていることを感じます。

■記号は、だれのため?

さて。

前回苦労して探した洗濯記号ですが、ここで読者の方に質問です。

記号は何のために使用するのでしょうか?

記号を利用する理由はいくつかあります。

1つは、交通標識のように「スペースが少ない」ところに表示するためです。
これは、わりとわかりやすい理由です。もっとも、これも欠点があります。欠点の内容は本論と絡んでくるため、後述します。
もっとも、日本語の表記に使用している漢字は表意文字なので、「止」と書いてあれば、ほとんどの人には看板としては用が足せたりするので、「標識」は必ずしもそれだけではないということでもあります。

2つめは、「文字を読めない人」のためのものです。

日本に生活していると忘れてしまいそうになりますが、世界中には文字を読めない人は多数居ます。そういう人たちにも、「標識」は「こういうルールだ」と定めることで、マークひとつで「ここわ通過してはいけない」「一方通行」といったことを示すわけです。

ちなみに、先程の「止」といった一文字も、中国人には「停」あるいはその簡字体で表記しないと、すぐには正しく理解されなかったりします。もっとも、同じ漢字文化圏ですから、理解は早いでしょうが。

○の中に×が赤で書いた標識は自動車の文化圏では大概「進入禁止」です。

これを言葉で説明しようとしたら、メジャーな言語だけでも一〇以上の表記が必要になるでしょう。それはまったく効率的ではありません。だから、記号を使うのです。

■記号のデメリット

さて、様々なメリットがある記号ですが、ひとつ、あきらかなデメリットがあります。

それは、その記号を使う人間は全員が同じ記号について同じ意味を知り、了解していいないとならないということです。
自動車を運転する人なら、免許を更新するときに「更新時講習」というものを受講させられます。はっきり言って眠くにるシロモノだったりしますが、それでもその時に渡される新しい規制標識などのパンフには目を通しておかないと、「見たことのない標識」が道路上に描かれていて、なんだろうと頭をひねっている打ちに「はい、そこの自動車左によって停止して」と声を掛けられるハメになったりするかもしれないわけです。いや、あくまでも可能性ですが。

そうです。記号に関しては、標準化とその広報・教育が必要だということです。

標準化されていないということは

あっちこっちで違う交通標識が乱立している

という状態になることであり、

広報と教育がされていないということは、

標識が変わったらしいけれども、どう変わったのかちっともわからない

という状態になることです。

これではまったく役に立たないことは説明の必要もなくおわかりと思います。

 

なんだか前説のつもりがすっかり話が長くなってしまいました。この話は次回に続きます。

良い製品に良い取説を提供します


【わかりやすいマニュアルの作り方】第142回体育会系の説明

2011年8月23日 火曜日

先週末までの猛烈な暑さが過ぎ、やっとひと息がつけるようになりましたね。

今回は、ちょっと変わった方面から書いてみようと思います。

■私のするとおりにしなさい

実は今、妻が某教習所に通っている。それも、二輪免許を取るためである。

二輪免許に関しては、評判が結構良いところを選んでいった。指導が確実で、内容は確かである。それについては間違いない。

しかし。
指導方法については、少なくとも話を聞くかぎりでは、どうも「体育会系」にかたよっているように思える。

もちろん、自動二輪はかなりの部分が、肉体的な運動なので「体育会系」の指導方法は間違っているとは言い切れない。
実際、自分が大型自動振りをとったときの、いにしえの都民自動車教習所の練習やら、いまでもやっているだろう砧や府中の二輪交通安全教室での練習は、理屈よりも圧倒的に「身体にたたきこむ」方式だったし、それは今でもとても役に立っていて感謝している。

とはいえ。

問題はちょっと違う。大型自動二輪の一発試験のための練習や免許を持っている人の技能向上のための訓練ではなく、免許を取るため、言い換えれば「乗れるようになるため」の練習だからだ。

ちなみに「私の言うとおりにしなさい」という指導方法は、だいたい以下のような感じになる。

オートバイのメインスタンドをかける方法についての指導です。

  1. 指導員がやってみせる。「このようにやります。」
  2. 「では、やってみてください。」
  3. できない。
  4. 怒る。「なぜ言ったとおりにしないのですか。」

運動神経の良い、あるいは勘と目の良い人、あるいは基本的に、パワーがあり力ずくであげられる人ならこれでも問題ないでしょうが、妻はさんざん苦労したあげく、うまくできず帰ってきました。

■説明をするということ

簡単に書きましたが、上記の方法は説明ではありません。

手本を見せてその通りにできるのはごく一部の人だけです。まず、普通の人は「まっすぐ立つ」ことからしてできていない、とこれは余談。

帰ってきて、落ち込んでいるので、うちのアドレスV100をひっぱり出して練習をすることにしてみました。取得する免許は、小型限定なのでこれで重量の点では問題はない。

とりあえず、やってみてもらう。だが、全くスタンドが上がる様子がない。

教習所での説明の内容を聞いてみる。

「車体をまっすぐに立てて、車体を引き上げる」

たしかに、間違ってはいない。

だが、これでわかる人は何度も言うが運動神経が良い人だけだ。まっすぐ立つという感覚の訓練を受けたことがないと、普通の人にはそんな感覚はない。

仕方がないので、メインスタンドの立て方を指導する。

  1. 「メインスタンドが地面に着くまで出したら、ちょっと左右に揺すってメインスタンドの、両足が着地しているところを探して」
    両足がついたところで車体が垂直に立ったことになる。
  2. 「スタンドの上に体重をかけて、てこの力でぐっと上がる感じをつかんで」
    力で引っ張り上げても相当のパワーがないと車体は上がらない。
  3. 「上がったら車体を後ろにちょっと引っ張って」これで、すとんとメインスタンドが立つ。

教習所では何度やってもできなかったという妻が、数回手伝いながらやると感覚を覚えたようでできるようになった。

言うまでもなくこういったことは技術である。技術である以上、やり方は説明が可能だ。

自分は、警視庁指導センターや府中の自動車試験場などでかなりの時間を練習に費やしたから(つまり下手だったから)説明の仕方を覚えたのだが、勘が良く、見ただけですぐにコツを飲み込める人間にとっては、こんな説明は面倒くさいだけであろう。

この説明方法を指して「体育会系の説明」と言います。

理解の良い人に教えるときには最も効率的な方法ではあるのですが、向き不向きがありすぎます。

弊社では、だれにでも分かる説明の方法を採用しております。

マニュアル(取扱説明書)制作の専門家 取説屋:石井ライティング事務所


【わかりやすいマニュアルの作り方】第138回説明が好きということ

2011年7月12日 火曜日

節電でクーラーを使えず、いろいろと大変である。
まあ、それでもがんばってのりきっていくしかないのですが。

■説明が好き

自分はこんな仕事(取説屋)をやっているが、とどのつまり、自分は説明することが好きなのである。
私事になるが、現在妻はHAMの免許を取ろうと勉強中である。HAMといってももちろん食べ物ではなく、アマチュア無線技師の資格である。
日本史や世界史では適当に「ろくはらたんでいって何?」とか「ルビコン川はどのあたりにある?」といった些末な、普通にはとても覚えていられないようなことでも大概は即答する妻だが、どういうわけか、物理ではオームの法則、数学では平方根あたりで理解困難になるらしい。
しかし、無線技術者の試験はあくまでも(初級)物理であり、歴史ではない。
たいへん不思議な話ではあるが、自分は理系と文系の間くらいを仕事としているわけなので、これらに何とか説明を試みる。
電圧と電流はポンプの流量で、平方根は文字通り平方(2乗)の逆数という概念からいろいろやってみる。
うむ、今思い返してみると、数学の先生もこんなに丁寧に概念を説明してもらってないが、それはそれとして。
やっていてよくわかった。
「説明して理解してもらうのは楽しい」
つまりはそういうことだ。
自分は、説明してわかってもらうことが好きなのだ。だから仕事としても楽しく、誇りをもってやれる。

■ひどい説明……

ちなみに、妻が購入したアマ無線の試験のテキストの「説明」はとてもひどいものである。技術的内容を知っている自分が読んでも、理解するためには図を書いてみないとわからない「書き方」というか説明をしている。
試験対策であり、1月くらいしか使用しないものとはいえ、よくまぁこれでお金をとれるものだというくらいである。
一例を挙げると、DSBとSSBを何の略語か一度も説明しない。両側波帯と単側波帯と書かれても何のことかわかったら不思議であろう。ちなみに、”Double Side Band”と”Single Side Band”である。先に一度こう書かないと、英語が瞬時に頭に浮かぶ人以外には絶対に理解できず、したがって覚えられないことは今晩の夕ご飯をかけても良い。

■結局の所は

説明をしてわかってもらうには、「1.理解していること」は当然として、もうひとつ「2.その説明の対象が好き」でないとむずかしい。そして「3.説明すること自体が好き」でないと取説屋はやれないのだなと思ったりしたのでした。