98/3/8のツーリング

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3/8はひさびさのツーリングだった。
バイク乗りと称していながら、何ヶ月もバイクに乗っていなかったのだ。
バイク乗りとして復活したのはただ2日前のことだった。

■出発前 ノートラブルのツーリングを目指して

目的地は富士霊園、要するに墓参りだ。ただ、墓参りといっても御殿場の手前
まで行くので結構な距離がある。
また、かなり山に近くなるので相当に冷える。それなりの装備が必要だ。
バイク乗りでないとわかりにくいと思うが、バイク乗りの装備は、常に季節をひとつ寒いほうにシフトさせたぐらいで適当なのだ。
真夏だって夜明けの高速道路だと相当に寒い。
シャツ、カラーシャツ、トレーナー、フリースジャケット、革ジャン。下はタイツに靴下二枚重ね、そしてレザーパンツである。
結局はスペアのウインドブレーカーも着ることになったのである。

前日は夜遅くまでWebのデータをいじっていたので、出発を遅らせている。
普段ならば4時か5時、夜明け前に出発するのだが、今日は8時半とすっかり日が昇ってからのスタートだ。
装備は雨合羽、工具、もう一枚のウインドブレーカー、地図ぐらい。
いつでも出せるところにあるものなので、適当につっこんで出かける。

庭に放置してある枝が、バイクの出るコースを塞いでいる。
ぶつぶついいながらどけて、道に出す。キックする。かかった。
装備を確認して出発。
どうみても気楽な道のりだ。きょうこそはノントラブルのツーリングだ、と意気込んででかけたのであった。

■まずは墓参りに

昔と違って、多少懐に余裕があり、かつ時間がない。
だから、渋谷に出るのに首都高速を使う。
料金を払って走り出してしばらくして。ふと気付いた。
「バックミラーに荷物が見えない!!」
手で探ってみて、落ちているわけではないことがわかる。だが、めいっぱい左によってぶら下がっている状態だ。
だが、首都高速には止まるところが存在しない。ところどころにセーフティエリアがあるが、それと知っていないと減速が間に合わないようなものだ。
片手運転で荷物を直す。落ちたのが左で幸いだ。右だとアクセルを握っていられない。
とにかく、荷物はシートにもどった。だが、ちょっとコーナーでGをかけると、すぐにずれる。これはやばい。
実に落ち着けないまま、東名川崎まで走った。
東名川崎には料金所がある。だから必ず止まる。あとはなんとかなる。
東名川崎で料金を払い、チケットを受け取る。料金所を出たら、左に寄せて止め
て荷物(デイパック)を背負う。重い。工具がごっそり入っているせいだ。
だが、すべり落ちるのを支えるのにくらべれば何倍もマシだ。
そうそう、この程度はトラブルでも何でもない。まだ、ノートラブルなのだ。

東名高速は別に言うべきことはなにもない。
だーっと走って海老名のSAでソーセージを食って、御殿場まで。
渋滞もない。45分くらいで着いたのではないだろうか。
ちなみに、海老名でウインドブレーカーも着た。動きは鈍くなるが、寒さで身体
が動かなくなったら、ウルトラセブンだってギエロン星獣にやられかけたではない
か。

御殿場から霊園に向かう。
途中工事中区画がオフロードになっていたが、なんてことなく通過。
霊園ではとりあえず墓参りをして、近況をひとくさり。公開してるものに書けるようなことではない内容だが、生前の約束を果たしてくれるように頼む。
ついでに一通り型を演じる。生前、母は僕に武術か武道をやらせたがっていて、はたせなかったのである。運命の皮肉というやつではあるが、まぁ勘弁してもらえるだろう。
ただ、ものすごく着込んでいるので、沈み込む動作(太極拳の下勢のような動作)に支障がある。困ったものだ。とりあえず、いいわけだけしておく。

■麦トロを食べに静岡に行く

用事がさくっと終わったので、前日の晩に友人と電話していた途中に
出たことで、「麦とろ」を食いにいくことにする。
道のついで、といいたいところだが、実は距離が倍になる。とはいえ、一時期は毎月
のように走っていたコースだ。何の心配もない。
御殿場から裾野、富士と走ると「山の上は冬なのに……」とかいったフレーズが
頭に浮かぶ。山では白い雪が残り、木々はまだ芽吹いていないのに、里では桃の花が
咲いているのだ。
途中、「道の駅・富士」で休憩。246から1号線に。
海が近くなるにつれ、どんどん暖かくなる。
そして、蒲原あたりに来ると、目前に海が開ける。ここは、1号線を走っている
時に僕がいちばん好きなところだ。
堤防に「ようこそ蒲原へ」「桜海老」とか書いて巨大なペンキ絵であって、テト
ラポットが見える。それから、海が見えてくる。
海風は完全に春だった。碧の光の生命力の海。春の海だ。
しばらく、ぼーっと海を眺めて走る。
清水をすぎて、田子の浦周辺を通り、静岡へ。

田子の浦といってももう忘れられているかもしれないが、一時期はヘドロ公害で
有名になったところだ。バイクで走っていても、煙突から煙を吐くのが見え、甘
いくせにかすかにはきけを催すような刺激臭が大気にまじっている。
一概に悪いなんて言えないから、複雑な気持ちで走る。
そして、静岡に着いた。
ちょっとだけ目的地を交番に聞き、道を探しながら店へ。
目当てのものがあったので、おみやげ屋に寄って購入。
「いやぁ、これ遠くから買いに来る人も入るんですよ」
「あの、僕は東京からですが」という会話を交わす。
おかげで横の人にもうひとつ売れたようだ。

店に入ると、「ブーツを脱ぐのが大変でしょう、テーブル席にしましょうか」と言われるが、結構疲れていたので座敷にあがった。
革ジャンとウインドブレーカーを脱ぐ。
トラブルに気がついたのはその時であった。

■う、トラブル…か?

僕のバイクには時計がマジックテープで止めてある。しかし、乗っていなかった
ため、時計は電池が切れて止まっていた。

「げ、2時半」
ジャケットを脱いで、初めて腕時計を見た僕は驚いた。
もちろん、日の傾きからそんなもんであることは知っていたけれども、実際に数
字で見るのとはわけがちがう。メシを食ったら3時になるのだ。それも東京から
200kmばかり離れたところで。さらに、途中には山があるのだ。
僕とっては「山は寒い」でおまけに暗くて路面は見えないしで…つまりは夜の山
はとっても恐いのである。
だけど、いまさらオタオタしても仕方がない。メシを速く食ったところで5分し
か早くならない。
それより、きちんととメシを食って疲労を回復する方がよっぽど大切である。
だいたい、のんびり食わないと麦トロがまずくなるじゃないか。

メシが来るには時間がかかるので、あぐらをかいて文庫本を出して待つ。のんび
りした時間が流れている。
麦トロが来る。おひつには麦飯がいっぱい。幸せ。
店を出たのは3時を楽にまわっていた。おまけに、麦飯でちょっとお腹が張って
苦しかった。
そして、山の方には黒い雲がかかっていた。

■夜の山は恐いんだよ

他のことはいい。だが、山の中で、夜に、悪天候というのだけは絶対に嫌だ。
そうなるくらいなら、適当なところに泊まるほうがマシだ。会社は休んでも死にはしない。
そう思って走り出したものの、途中で眠気に襲われた。
眠い。はっきり言って危ない眠気だ。
こういう状態では無理は不可能だ。経験則がそう言っている。
とりあえず、道の駅富士まで戻り、バイクの横にへたりこむ。10分ほども眠っただろうか、
他のライダーの声で目がさめた。
「この天気ぜってぇやべぇよ、みろよあの雲、あぶねーよー」
目を開けると空はすっかり暗くなっている。
眠気がふっとんだ。ただちに出発する。無理な姿勢で寝ていたので身体がキツいが、仕方がない。「むぅ、やむをえない。高速道路で帰ろう」
そのまま富士インターへと向かう。しかし、高速道路の表示板にはとんでもない
ことが出ていたのである。
「横浜町田 事故渋滞22km」
げっ、と思った。
バイクではすり抜けができるから平気でしょ、と思われるかもしれない。
だが、実際にバイクに乗っている人なら知っているように、すり抜けは楽ではないのだ。
左端を走っていると高い確率で捕まる。路側帯は通行禁止なのだ。
とすると、どうするか。2車線の間を走るのだ。そこは取り締まりができないから。
しかし、両側の車に神経を払う必要がある。20kmもの間そんなことはしたくない。
ただ、頭上の黒い雲がプレッシャーを与える。
「とりあえず渋滞の手前まで高速で行って時間をかせごう」
そして、高速に乗り、沼津で降りた。
後になって考えたのだが、判断としては間違いではないが、だったら御殿場まで乗っていけばいいのである。だが、疲労と軽いパニックのもとではそんなことは考えつかない。
とりあえず、沼津で降りた。246に向かう。1号線という選択肢もあったが、慣れない道での
箱根越えをさけたのだ。
沼津から、御殿場、小山と先刻の逆コースを走る。道は山の中となり、空はどんどん暗くなる。
「頼むよ、降らないでくれよー」祈るような気分である。
もちろん、降ったら降ったでなんとかはできるのだけれども。

■そして、無事帰宅

「普段の行いが悪いからかなー」などと考えていた。パニック性の前兆である。
と、小山のあたりを通るときにふと気がついた。
「あ、俺は今日ここに来た理由は…」
それでやっと落ち着いた。今日ばっかりは僕がバカをやらない限り、事故が起こるはずはない。
妙なものである。たったこれだけでずいぶん楽になった。
とはいえ。
あと110kmあることは変らなかったのである。
とりあえず、山を越して愛甲石田駅に着くころは、日こそ暮れかかっていたが、雲は晴れ、無事に帰ったことを確信できたのであった。
そっから先は、言うほどのことはない。
途中でといざラすに寄ったり、マクドユルドに寄ったりしながら、なんとか家まで無事故、無転倒、無検挙でかえりついたのであった。
…ノートラブルって言えないのがなんだかなぁ。
ま、いつも通りかな。

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